小さなガラスのビーズを使った研究でムペンバ効果が本当であることが示されました。
熱いものは温かいものよりも早く冷めることが研究でわかりました。冷たいものに比べて熱いものの方が同じ温度に冷却されるまでの時間が少なかったのです。8月6日にNatureに物理学者が報告した内容によると、指数関数的に冷却時間が早まる場合もあるそうです。
この実験は冷たい水より熱い水の方が早く凍るという、一見直感に反しているムペンバ効果に関するレポートに触発されて行われました。しかしこの現象を研究するための実験は、水や凍結過程の複雑さから困難を極め、結果の再現性が難しく、この効果が本当だとしても、この効果の原因やその定義については科学者の間でも意見が分かれました。
この複雑さを回避するために、ともにカナダのバーナビーにあるサイモン・フレイザー大学に在籍するアビナッシュ・クマール氏とジョン・ベックへファー氏は水の代わりに直径1.5マイクロメートルの小さなガラスビーズを使いました。そして研究者たちはより複雑な凍結プロセスの代わりに冷却をベースにムペンバ効果を定義しました。
実験結果:「この効果を証明するクリーンで完全にコントロールされた実験だと主張できる実験はこれが初めてです。」とノースカロライナ大学チャペルヒル校の理論化学者のZhiyue Lu氏は話しています。
実験では、ビーズを水の分子単体とみなし、『分子』の集まりを生成するための条件下で1,000回測定が行われました。レーザーが各ビーズに力を及ぼしエネルギー地形、またはその可能性を描きました。その間ビーズは水槽の中で冷やされました。組み合わせた実験から、ビーズの効果的な『温度』はエネルギー地形をどのように横切るかによって導き出され、レーザーによって加えられた力によって変動します。
この実験装置がどのように冷却されるかを研究するため、研究者たちはビーズの動きを時間とともにトラッキングしました。ビーズは高温、もしくは適温から実験を始め、ビーズが水温にまで冷却されるのにかかる時間を測定しました。ある条件下では、より熱い温度から測定開始したビーズは低い温度から開始したビーズよりも冷却時間がより短く、指数関数的に早くなる事例もありました。熱いビーズでは冷却に2ミリ秒ほどかかったのに対し、温度の低いビーズはその10倍もの時間がかかりました。
低い温度から開始したほうが有利だと考えるのが賢明だと思えます。温度を下げるという単純なレースでは熱いものは、より低いものと同じ温度にまず下げなくてはならないので、より熱いモノの方が冷却時間が増えると考えられます。
しかし、このシンプルな論理が正しくない場合があるのです。具体的には、すべてのものが一定の温度に達していない、つまり熱平衡の状態にないシステムの時にこれが当てはまります。そのようなシステムにとって「その動作は温度だけによって特徴付けられるものではありません。」とベックへファー氏は言います。物質の動作はとても複雑なので一言で説明することはできません。ビーズが冷やされると熱平衡の状態ではなくなり、つまりエネルギー地形内でビーズは単一温度で説明することができるように分布されます。
そのようなシステムには、高温から低温へ直通路があるというよりは、むしろ冷却までにはいくつもの通路があり、近道が存在しているのです。ビーズにとってはエネルギー地形の形に応じて熱い温度から冷却を開始するということは低い温度に合わせるための構成が簡単にできます。ハイカーがより遠くから山登りを始めることできつい道を避けることができるので、より目的地に早く到着することと似ています。
Lu氏は物理学者のオーレン・ラズ氏とともにそのような冷却への近道は可能だと以前に予測していました。「実際に目にすることができて良かったです。」とイスラエルのワイツマン科学研究所のラズ氏は語っています。しかし「これが水でも同じ効果があるかどうかはわかっていません」とも述べています。
水はもっと複雑で、含まれた不純物の癖を含め、蒸発や凝固点温度を下回っても液体のままの過冷却などもあります。
しかし研究のシンプルさは美しさである、とバージニア大学シャーロッツビル校の論理物理学者のMarija Vucelja氏は話しており、「最もシンプルな仕組みでこの効果を示すにはすでに十分です。」とも語っています。つまり、ムペンバ効果は水にもビーズにも当てはまるというのです。「この効果が自然の中でかなり一般的に見られる効果なのに、わたしたちが着目していなかっただけなのです。」
reference:science news