ある男性に顔半分が溶けたように見えるという非常に希な症状が現れました。Current Biologyに掲載されたケーススタディには、患者の視力は正常であるにもかかわらず顔が歪んで見えるというその見え方について書かれています。
半側相貌変形視(口がうまく回らなければhemi-PMOでも良いでしょう)という病名で知られており、医学史で今まで25例しか記録がなく、何かしらの脳損傷によって引き起こされています。
今回のケースの研究者の間でA.Dさんと呼ばれたこの患者の場合、脳の視力を司る領域である脳梁膨大部の病変によってこの症状が出始めました。彼が最初に病院を訪れたのは5年前で顔の片側だけが溶けて見え、生活の質が大幅に低下してしまったと訴えました。hemi-PMOは時間の経過とともに症状が落ち着くことが多いためほとんど研究が進んでいないのです。
この奇妙な病気を理解するために、研究者たちはA.Dさんに顔や物の一連の映像を違う面、違う角度、違う視点から見せました。その結果、彼は生物ではない物体に関しては「正しく見えていたのですが、顔に関しては向き変えようが回転させようがほぼ全て歪んで見えたのです。A.Dさんには下の画像の顔の赤い部分が溶けているように見えたのです。このことから、彼の視覚系は通常の向きで認識した顔のテンプレートを使って逆さまの顔を見ていることがわかります。
この症状をまとめると、顔を見るときにギャップを埋めるために保存してある顔の画像を使う顔認証システムと比較することができます。私たちが誰かの顔を初めて見るとき、心の中で作り上げた今まで見てきた過去の顔のサンプルを組み込みます。このような処理をする脳の領域の損傷のせいでA.Dさんがサルバドール・ダリの作品のように歪んだ映像を見てしまうことになったのです。
「FacebookやGoogleが使っている顔認証システムのように、脳は顔を見る度にその大きさ、見方、向きなどを調整して記憶の中に保存された顔と適合するか確認作業をします。」とダートマス大学社会的知覚研究所の主任研究員で論文の共著者であるブラッド・デュシェーヌ氏は話しています。
「見た顔を記憶に保存された顔と比べることで、その顔が前に見たことがあるかどうかの判断が容易になります。」hemi-PMOは顔の認識を混乱させる障害の1つです。他にも顔が認識できなくなることで知られる相貌失認は、以前にも見たことがある顔を同じ顔であると認識することができず、社会や生活の質の多大な混乱を招いてしまいます。
reference:iflscience