ブラックホールは狭い空間の中に大量の質量が詰め込まれた状態であり、一度その中に入ってしまえば光でさえも脱出することはできません。理論上、地球を半径1センチメートルにまで圧縮するとことができれば、そこには小さなブラックホールが誕生することになります。
豆粒ほどの大きさであるにも関わらず、地球と同じ重さがあるとはとてつもない密度です。このような極小ブラックホールが地球上に現れた場合何が起きるのでしょうか?待っているのは死のみなのでしょうか?
今回は地球上に豆粒大のブラックホールが誕生するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
通常考えられているブラックホールは、重い星の成れの果ての姿です。太陽質量の8倍以上を持った恒星が寿命を迎えた際に超新星爆発を起こし、太陽質量の30倍以上の質量をもった恒星の中心部分が重力で圧縮されることによってブラックホールになります。
こうしてできたブラックホールは太陽質量の3倍以上の重さがあり、半径は最小でも9キロメートル以上あります。それでは、初めに紹介した豆粒大のブラックホールはいかにしてできるのでしょうか?
現代の物理学者たちは、物質を細かく砕いて宇宙が何によって構成されているのかを調べるために粒子加速器という装置を使って、高エネルギーの粒子をぶつけることで新しい粒子が発生するかの調査を行なっています。
アインシュタインの相対性理論によると質量とエネルギーは等価。これにより加速器では粒子が衝突した1か所で大きなエネルギーが発生します。
したがって、衝突で発生したエネルギーによってブラックホールが発生する可能性があるといわれているのです。とはいえ、これによって発生するブラックホールはすぐに蒸発して消えてしまうと考えられています。
また、地球には、常に何億、何兆もの超高速粒子がぶつかってきています。その中には粒子加速器の200万倍近いエネルギーを持つものもあります。
これらの高エネルギー粒子が地球の大気にぶつかった際に、その衝撃によってブラックホールができる可能性があるとも考えられています。しかし、このブラックホールも素粒子レベルの大きさであるため、すぐに蒸発してしまうでしょう。
なかなか、ミニブラックホールが地球上で自然的に発生することはなさそうです。ん?バイエンススーツがあれば、ブラックホールを誕生させることができる気が…。
バイエンススーツがなければ、そのようなことが起きる可能性は限りなくゼロに近いですが、もし、半径1センチメートルで地球と同じ重さのブラックホールが地上に現れたらどうなるのか見ていきましょう。
まず、すぐに影響が現れるのは地球の重力の変化です。重力は光速で伝わるため、すぐに影響が現れます。
ブラックホールのすぐそばに人がいた場合には、足と頭で掛かる重力の大きさが異なるため、強い力で引き伸ばされることになります。おそらく、あなたたち人間さんはスパゲティのように引き伸ばされて原子レベルに分解されてしまうでしょう。
ブラックホールから20キロメートルの地点では、潮汐力は地球の重力の約10倍(10G)となります。普通の人であればこの程度の力が加わると気絶してしまうことでしょう。ちなみにジェットコースターの重力加速度は最大で3G〜4G。
それでは、ブラックホールよりかなり離れたところではどうでしょうか。オーストラリアにブラックホールが現れたとしましょう。
その際、東京にいる人には自分の体が1.7倍程度重くなったように感じられます。また、地面が南北方向に30°傾いているように見えるでしょう。これは、今まで地球の中心に向かっていた重力が、地球中心とブラックホールの中間点に向きを変えるためです。
また、地上にブラックホールが現れると、周りの大気もブラックホールに引き込まれることになります。
しかし、地球が自転しているため、ブラックホールに向かう風はコリオリの力を受けてブラックホールの周囲を渦巻くような動きをします。これによって、ブラックホールを中心とした強烈な台風ができる可能性があります。
さらに、ブラックホールの潮汐力によってマントルやマグマが動き出し、地表では火山が一斉に噴火するかも知れません。実際に木星の衛星イオでは木星の潮汐力によって火山活動が発生しています。
これは潮汐力によってイオの内部が加熱されているためであると考えられています。同じことがブラックホールによって地球にも引き起こされるかもしれません。
地上に現れたブラックホールですが、ずっと地表にあるわけではありません。今回発生させたブラックホールには地球と同じ重さがあるため、地球の中心方向に引っ張られていくことになります。そのため、ブラックホールは周囲のものを破壊して飲み込みながら地球中心に向かって進んで行くでしょう。
やがて地球の中心まで到達したときにブラックホールの進行は止まります。実際には地球が自転しているため、ブラックホールはらせん状に回転しながら地球の中心に進んで行くことになりますが。
いずれ、地球の物質は全てブラックホールに飲み込まれてしまうはずですが、それまでにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?
ブラックホールの半径は1センチメートルなのでその表面積は約13平方センチメートルです。この領域に落ち込んでくる物質は光の速度にまで加速されています。
そこから、一秒間に吸い込まれる領域の体積を計算すると4000立方メートルとなります。これは25メートルプール15個分の体積です。かなりすごい勢いで吸い込んでいるように思いますが、それでも、地球全体が吸い込まれるまでの時間は90億年となるのです。
より視点を広げましょう。ミニブラックホールによって太陽系全体には影響を与えないのでしょうか?
地上にブラックホールが現れたことで、地球の重力は倍になり、これは地球の衛星である月の軌道にも影響を及ぼします。現在の月の軌道では重力と遠心力が釣り合わなくなるので、より地球の近くを回ることになるでしょう。さらに、その軌道の形は円から楕円形に変わると考えられます。
そして、ブラックホールは太陽系の周りの小惑星を引き込みます。それによって、以後数百年間は、小惑星同士の衝突や惑星と小惑星の衝突が今よりも頻繁に発生するようになるでしょう。他の惑星もブラックホールの力を受けますが、軌道は変化しない可能性が高いです。
そしてブラックホールも地球になり変わり、今の地球と同じ軌道を回り続けるのです。豆粒サイズのブラックホールといってもその破壊力はあなどれません。
Mr.VAIENCEに助けを求めたいところですが、彼は天体落下ミッションで忙しいようです。そこのあなた、バイエンススーツをきて地球の平和を守っていただけないでしょうか。