新・木星に落ちた者の末路……

木星まであと少しのようだ。新バイエンススーツを着用しているため、今回の木星落下は前回に比べてイージーなものだろう。そうだ!落下している間、みなさんにわしが木星についての興味深い話をとことん教えてやることにしよう。ぐふふ。木星に落下するのが楽しみだ。

ようやく到着したようだ。皆さん、心の準備はできとるか?それでは、木星への落下を開始する。

皆さんご存知の通り、木星は太陽系最大のガス惑星だ。その直径は約14万 km、地球の約11倍だ。そして、質量がなんと地球の約318倍もある。木星の英名「ジュピター」は古代ローマ神話における最高神ユーピテルに由来しておる。

木星の衛星はイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストのガリレオ衛星を含めた79個が確認されておるのだが、太陽系最大の惑星にして、これらの衛星を従える、威風堂々たるその姿はまさにその名の由来に恥じないものといえるだろう。

木星では地球の約 2.5 倍の速さで降下していくことになるぞ。新型バイエ ンススーツを着とるから何も問題はないはずじゃが…。

落下を続けると、やがて、非常に危険なゾーンを通ることになる。いわゆる「放射線帯」ってやつだ。前回の木星落下を体験した方は知っていることだろうが、 今回はもう少し詳しく教えてやろう。

木星には強力な磁場が存在する。その磁力は地球の磁場の約2万倍!そして、磁場には高エネルギー粒子を捉える性質があるんだ。それにより、木星の周りには たくさんの高エネルギー粒子が捉われ飛び交っておる。これが放射線帯だ。

その放射線レベ ルは凄まじく、NASAの惑星探査機パイオニア11号が木星の近くを通過しただけで軽い故障を起こしておる。

生身の人間なら即死レベルだが…バイエンススーツを着とることは覚えておるの?バイエンススーツには高性能の放射線シールドが搭載されておる。非常に危険な放射線帯だが、無事に通り抜けることができる。

ところで、木星の強力な磁場は悪い面ばかりではない。良い面もある。例えば、木星では強力な磁場があるために地球では絶対に拝むことができない絶景を拝むことができる。

その正体こそがオーロラだ!木星のオーロラは、可視光線のみならず、電波、紫外線、X 線等の多くの波長において、地球のオーロラの100倍以上の明るさで輝いておる。あまりの明るさにさすがに目がチカチカしてしまうかもしれんが、まあ大丈夫だろう。

さらに降下を続けると、木星に特徴的な茶色の縞模様がよくみえるようになってくるだろう。この縞模様の正体はアンモニアの氷の粒でできた雲だ。

場所によって色が違うのは、アンモニアの氷の粒の大きさや雲の厚さ、雲に含まれる微量元素等が異なっているため。木星の大気の厚さはNASAの木星探査機ジュノーの観測データから3000kmほどにもなると考えられておるんだ。

その約9割が水素から成り、残りの約1割がヘリウム、その他にメタンやアンモニア等がわずかに含まれておる。この時点での温度は-140°Cほどだ。少し寒くなってきたのう…。高温耐性に技術を注ぎ込みすぎたかもしれん。少し心配になってきた…。

おゃ、よく見ると巨大な渦巻き模様が見えてきた。そうだ、あれが有名な大赤班だ。せっかくだから、少し方向を変えて、飛び込んでみることにしよう。大赤斑は巨大な高気圧性の嵐だ。その大きさは地球が2~3個すっぽり入るほど。

1665 年に天文学者ジョヴァンニ・カッ シーニによって発見されて以来、現在まで 350 年以上に渡って存在し続けておる。ただ、なぜ、大赤斑がこのように長期間に渡って存在し続けることができるのかについては、まだよく解っておらん。今回の落下中に研究したかったのだが、それにしても寒いんじゃ。

この辺りの風速は毎秒180mにもなる。地球の場合、最大級の台風でも秒速60m 程度だから、その3倍ということだ。しかし、この大赤班が近々消えてしまうかもしれないとも言われておる。

NASAの研究チームによると、大赤斑の大きさはしだいに縮小していると言う。実は、大赤班の大きさは1800年代後半には地球の4倍ほどもあったんだ。しかし、1979 年にボイジャー2 号が観測した際には、地球の2倍ほどに縮小し、2014 年には地球とほぼ同じ大きさにまで縮小してしまっとる。

このまま縮小し続ければ、21 世紀の中頃には、大赤斑は消滅してしまうかもしれないと言われておる。できれば、皆さんにも近くで見せたかったのだが、間に合うのだろうか?

んぐおおっ。どうやら雷に撃たれたようだ。心配ご無用、何も問題はない。実は、木星の嵐でも雷が発生することが確認されておる。NASAの木星探査機ガリレオによって地球の雷の1000倍近くも強力な雷が観測されたこともある。

地球の場合、雷は雲の中の氷の粒が擦れ合うことで発生する静電気が、雲の内部に蓄積することによって発生する。NASAの木星探査機ジュノーの観測データから木星の雷もこのような地球の雷に近いものであることが解っておる。

ただ、その発生場所は地球の雷とは異なる特徴がある。木星の雷は、赤道付近 では発生せず、主に南極、北極等の極地方で発生するんだ。

これは、赤道付近では太陽光線によって上層の大気が温められるために上昇気流が発生しにくいのに対し、極地方では太陽光線によって上層の大気が温められにくく冷たいために上昇気流が発生しやすいからではないかと考えられておる。

大気の表面から3000kmほど降下すると、高い圧力のために水素が液体化し始める。そして、そこからさらに2万kmほど降下すると、さらに高い圧力のために今度は水素が電気を通すようになるんだ。このように電気を通すようになった水素は金属水素と呼ばれておる。

ここまで降下すると、温度は 1 万°C近くに、圧力は200万気圧にまで達する。太陽の表面温度が約6000°Cほどであるから、それをゆうに超える暑さだ。

ところで、木星には強力な磁場があると説明したが、実は、この金属水素の層が磁場を生み出しているのではないかと考えられておる。金属水素の層はとても高温。そのため金属水素は対流運動を起こしておる。

つまり、この磁場の中を金属水素が対流運動することによって、電流が発生し、この電流によって磁場が発生するというわけだ。そして、こうして発生した磁場の中を金属水素が対流運動することによって電流が発生し・・・後は無限ループだ。

このような考え方をダイナモ理論と呼ぶ。理論的には防災グッズ等に付いている手回し式発電機と同じ原理だ。

さて、いよいよ今回の降下もクライマックス。木星のコアに到達したようだ。

木星のコアは岩石、鉄、ニッケル等でできておる。その大きさは直径2万kmほどにもなり、コアだけでも地球2個弱の大きさがあることになる。そして、質量は地球の 10 倍弱。この地点における温度は3万6000°C弱、圧力は4500万気圧にも達っする。

想像を絶する環境だが、バイエンススーツを着ているワシにとっては朝飯前だ。さて、今回のミッションはこれで完了。



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