青いスーツに赤いマント、地球上で最も有名な元祖ヒーローといえば?そう、スーパーマンです。
スーパーマンはジョー・シャスターとジェリー・シーゲルによるアメリカンコミックが原作で、1978年にSF映画として公開されました。
この映画は世界的にヒットし、日本でも当時、洋画部門で1979年の興行トップを記録しました。内容はもちろん大受けでしたが、物議を醸したのはスーパーマンが時間を遡って恋人を救おうとするシーン。恋人のロイスを失った彼は、なんと地球を逆回転させてしまいます。
というのは、映画の演出で、地球を逆回転しているのは超高速で動くスーパーマンの主観なのですが、それでも当時はあまりにも衝撃的で大きな話題を呼びました。
では、このシーンが演出ではなく、もし本当に地球の回転が逆になるとしたら?今回は、不朽の名作から、地球のもしもを考えてみたいと思います。
今回は地球が逆回転するとどうなるのか、についてご紹介したいと思います。
まず地球の自転について知っておきましょう。地球は地軸と呼ばれる北極点と南極点を結ぶ軸を中心に回転しており、公転軸に対して23.4度ずれています。
この傾きによって夏には太陽は高く昇り、冬になると太陽は低く、昼は短くなります。地球は地軸を中心にコマのように回っており、赤道付近での速度はなんと時速1,600km近くにもなります。
旅客機の巡航速度はおおよそ800~900kmと言われていますので、赤道付近の回転速度はその2倍ということになります。音速が時速約1200kmなので、音速の1.3倍の速度で回転していることになります。
では、ここから地球の自転だけを逆転させるとどうなるのでしょうか?自転を逆転させた瞬間、地上にいる人たちは音速の1.3倍で壁にぶつかると思ったでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。もしも、地球の自転だけを逆転させると、地表にあるものは全て同じ方向に移動していきます。これは、地表のもの全てに慣性の法則が働いているためです。
慣性の法則とは物体が外から力を受けなければ、物体はそのまま運動または静止を続けるという法則のことです。車や電車で急ブレーキをしたときに前のめりになるのはまさにこの法則。
地球の逆転がごくごく短時間で起こった場合、しっかりと建っているように見える建造物や地面にしっかりと根を下ろしている大樹も、そのあまりにも急激な速度変化に耐えることはできません。私たち人間も逆転の瞬間、計り知れない衝撃にぶっとばされてしまうことでしょう。
また、地球上にあるもので地面を除く大質量のものはなんでしょう?森でしょうか?町でしょうか?そう、海です。
水が入ったコップを揺らすとその動きに合わせて波が発生し、表面がユラユラと揺れます。そのコップを急激に止めると、中の水が溢れそうになるでしょう。この現象が地球規模の海で発生します。
想像もつかないような大津波が各地を襲い、地球上の多くの場所で地形が変形することになるでしょう。アメリカの西海岸や日本海側といった大陸や島国の西側は逆流する海を受け止める場所となります。
地球の自転がごくごく短い時間で起きた場合、該当地域は私たちが地図で知るその形状と大きく異なったものになるかもしれません。
参りました、あまりにも変化が急激だとその後を検証する前に地表が崩壊してしまいます。やはりせっかちなのはいけませんね。では、慣性の法則の影響が大きくなりすぎないよう十分な時間をかけて地球を逆転させてみたらどうでしょう。
先ほどのように、急激な変化がないなら大丈夫!と思っていませんか?実は自転は私たちの目に見えない部分で大きな影響を与えています。
それは地磁気。地磁気は、地球が持つ巨大な磁場のことをいいますこの巨大な磁場は、宇宙から降り注ぐ宇宙線と呼ばれる有害な電磁波から地球上の生物や電子機器を守ってくれるバリアーの役割を担っています。
宇宙線は強力で、人工衛星などに搭載されている半導体の集積回路に、その荷電粒子が一つ飛び込んだだけで動作エラーが発生することもあるほど。
また太陽風の影響も無視できません。太陽風は太陽から吹き出す極めて高温で電離した粒子のことで、地磁気がなければ、地球の大気を吹き飛ばすと言われています。
自転はこの地磁気の発生に影響を与えています。地球の中心部分は、中心核と呼ばれる鉄など金属を流す物質で構成されていて、その周りを外殻と呼ばれる液体が覆っています。
この外殻は熱や成分、密度の違いといった要因の他に自転によってもゆっくり動いています。そして、この電気が伝わる中心核と、ゆっくり動く外殻によって電流が生じ、磁場が発生しているという仕組みです。
ゆっくりと自転を逆転させるためには、当然速度がゼロに近い状態を経る必要があるので、その過程で自転が止まり、地磁気のバリアがなくなる時間が生じてしまいます。
この間は宇宙線や太陽風に対して無防備な状態が続きます。晒される時間にもよりますが、仮に人類がその影響をまぬがれたとしても、生態系に大きな影響を受けることは間違いありません。
ん?それでも生き残ったらどうなるか?素晴らしいですね、それでも気になるというあなたには科学者としての資質があるのかもしれません。
実はこの『恒常的に自転が逆転したらどうなるのか』というテーマには世界中の科学者たちが真剣に取り組み、論文やシミュレーション結果が発表されています。
その中でも比較的新しいものでは、欧州地球科学連合が行った2018年の総会での発表です。この発表ではなんと、地球をただ逆転させるだけではなく、その影響を7,000年先までシミュレーションし、自然環境や生態系の変化まで考察しています。その内容を少しだけ紹介しましょう。
自転は気象や海流といった地球規模の運動に影響を与えています。例えば自転が逆転すると、西から東に常時吹いている偏西風が反対方向に吹くことになります。空気の対流が変わるため、我々が慣れ親しんでいる気圧配置も全く異なるものになります。
また、自転の逆転は海流をも大きく変えてしまいます。単純に海水の運動するベクトルが変わるという話ではなく、暖流や寒流といった気候に大きな影響を与えている部分が変化してしまうとのことです。
結果、我々の知っている砂漠地帯の緑化や反対に熱帯雨林が砂漠化するといった現象、永久凍土であるロシアが温暖になるといった現象が見られるのです。
さらに平均気温の変化や、特定の藻類が爆発的に繁茂し、生態系に大きな影響を与えることは間違いないとされています。