油の海底には何が?タイタンに落ちた者の末路……

土星の周囲を公転するオレンジ色の衛星「タイタン」

タイタンの直径は約5100km。地球の月の約1.5倍の大きさで、太陽系の衛星の中では、木星の衛星「ガニメデ」に次いで2番目の大きさです。しかし、タイタンは見かけ上、さらに数百kmほど大きく見えることでしょう。

その原因は、タイタンに存在する大気。タイタンは分厚い大気に覆われており、宇宙からは地表を確認することができません。

では、このタイタンに落下すると人間はどうなってしまうのでしょうか?タイタンの表面には一体何があるのでしょうか?

今回は土星の衛星「タイタン」に落ちるとどうなるのか、についてご紹介したいと思います。

タイタンがオレンジ色に見えるのは、メタンなどが太陽からの紫外線と反応してできるソリンであると考えられており、タイタン地表の100kmから200kmの間を覆っています。

分厚い大気に覆われている衛星は、太陽系の中ではタイタンのみ。似たような大きさのガニメデや、前回落下したエウロパにほとんど大気が存在していないのとは対照的でしょう。なぜタイタンだけが分厚い大気を持っているのかは、未だ明らかになっていません。

では、早速オレンジ色の大気に向かって落下します。ミスターバイエンス。元気よく落下してくださいね。実を言うと、タイタンへの落下には、先駆者がいます。

2005年に、欧州宇宙機関が作製した惑星探査機、ホイヘンス・プローブがタイタンへ突入し、2時間以上かけて落下した後に地表に到達、それから90分ほど活動しているのです。

そのため、タイタンの大気については詳細に明らかとなっています。タイタンの大気は、地球と同じようにいくつかの層に分かれており、高度1500kmから800kmほどまでは熱圏と呼ばれる層になります。

この層の温度は、摂氏-120度ほどとなっています。そして、高度800km付近では大気中のシアン化水素の影響で温度が摂氏-130度程度まで低下します。大気の大部分が窒素で構成されていますが、ごくわずかにメタンなどの炭化水素が存在しているのです。

どんどん落下しましょう。高度800kmを過ぎると、中間圏に突入します。気温と気圧が少しずつ上昇していき、高度600kmほどにあるオレンジ色の薄い霧に到達する際には、気温が摂氏-110度、気圧は100mPa(ミリパスカル)に到達します。

この薄い霧は高度450kmまで続くことになるでしょう。視界が悪いですが、我慢してください。落下していくにつれて、大気中のメタンの割合が増加してきます

メタンは、二酸化炭素の25倍ほどの温室効果を持つため、気温が急激に上昇することになるでしょう。とはいえ、ここは太陽から遠く離れた土星付近。地球のような温暖な環境は期待しないでください。

高度400km付近の摂氏-80度が、この星の最高気温。また、大気圧は約1Pa。これは地球表面での気圧の約10万分の1となります。

薄い霧を過ぎると、成層圏に到達します。ここからは、再び温度が低下していきます。霧により太陽光が遮られるためです。下を見ると濃い霧で覆われており、この高度でもまだ地表を見ることはできません。

成層圏に到達した際には摂氏-80度あった気温も、成層圏の終わり、高度40kmでは最低の摂氏-200度に達します。あれ?どうしました?少し寒そうですね。

成層圏を抜けると、大気の最下層、対流圏に到達します。ようやく地表が見えてきますが、頭上にある濃い霧の影響で、視界がオレンジ色に染まっているでしょう。

そろそろ落下にも飽きてきたことなので、着陸準備に入りましょう。天王星に落下した際に使用したジェットを使用して、時間を短縮します。

おめでとうございます。無事に地表に到着しました。地表での大気圧は1500hPa(ヘクトパスカル)、これは地球1.5倍ほどの気圧になります。つまり、タイタンは気圧だけで言えば、人間が生身で生存可能な星というわけです。

ちょっと待ってください、バイエンススーツを脱ぐのはお勧めしません。地表の気温は摂氏-183度、大気はほとんどが窒素、5%程がメタンで構成されており、酸素がありません。

あなたたち人間はバイエンススーツに生かされているのです。そして、重力は地球のおよそ14%。これは以前落下したエウロパと同じくらいです。

辺りはとても暗いでしょう。タイタンが受け取る太陽光は、地球のおよそ100分の1。その上、そのうち90%は霧に遮られ地表に届くことはありません。

ホイヘンスプローブが落下した際にも、タイタンの表面は昼間でもかなり薄暗い状態であったようです。そのため、地上700メートルの高度まで降下したころに、下向きへライトを点灯して撮影を続けたとのこと。

そして、驚くべきことにタイタンでは地球上の水と同じように液体メタンが循環しています。タイタンに存在するメタンの量は膨大で、地球にある埋蔵量の数百倍にも達すると考えられています。

そのため、将来タイタンに基地を建設し、太陽系の外側に向かう宇宙船のための燃料補給所にするという構想もあると言います。また、タイタンは、地球以外の太陽系の天体の中で唯一、海が存在します。

もちろん、その液体は水ではなく液体メタンや液体エタンです。地球上ではガス状であるメタンやエタンが液体でいられるわけは、タイタンの気温が低いことによるもの。

海は大小さまざまありますが、最大のものはクラーケン海と呼ばれ、日本の面積よりも広大な海が広がっているのです。このような海からメタンが蒸発し、気温が低い上空で雲を作り、雨となって地表に降り注ぐことにより、メタンが循環しています。

しかし、タイタンの大気はメタンを多く含むことができるため、地球上の雨と違い、乾季と土砂降りが数年おきに繰り返されていると考えられています。メタンの土砂降りが起こるたびに、川が形成され、海に大量のメタンが供給されます。

海に溜まったメタンは、長い乾季で蒸発し、その後再び雨が降るのです。今ある大きな海も、長い乾季でメタンが蒸発し続けることで、数年後にはなくなっているかもしれません。

では、せっかくですので、液体メタンの海へダイブしてみましょう。エウロパの水の海では泳ぐことができたので、おそらく液体メタンの海も泳げるはず。飛び込んだ瞬間から、まるで石のように身体が沈んでいきます。

メタンの比重は、水の半分もありません。それはすなわち、浮力も半分以下であることを意味します。人体の比重は水とほぼ同じであるため、液体メタンの中ではどんどんと沈んでいきます。

自力で浮上するにはかなり体力を要します。海の深さについての情報は少ないですが、例えばタイタンで2番目に大きい海であるリゲイア海の深さは、平均50m、最大で200mと考えられています。

海の底に到達したようです。海の底は、ベンゼンという化合物でできた泥で覆われていると考えられています。ベンゼンはタイタンの大気中で作られるのですが、雪のように地表に降り、メタンの海に溶けきれなくなった分が底に析出しているのです。

ということで、今回はこの辺りで終了しましょうか。



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