月を爆破すると聞くと、皆さんの脳裏にはバイエンススーツがチラつくことでしょう。しかし、これが真剣に検討された時期がありました。
時は冷戦、当時宇宙開発にしのぎを削っていたアメリカとソ連は、双方ともに月を核で爆破することで、宇宙開発の進歩と核爆弾の驚異を相手に見せつけるといった作戦を検討していました。
あまりにも馬鹿げた作戦ではありますが、幸いにも、どちら側もこのような作戦を実行に移すことはなかったようです。アメリカとソ連が実行しなかったのであれば、ここはバイエンスの出番ですよね。
では、実際に月を爆破すると、どうなってしまうのでしょうか。月を木っ端微塵にするのに必要なエネルギーはどのくらいなのでしょうか?
今回は月を爆破するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
まずは月を完全に破壊するために、どのくらいのエネルギーが必要なのか知っておきましょう。
現在、人類が持っている爆弾の中で最も威力が高いのが、核爆弾です。ウランなどの重い原子を分裂、もしくは水素などの軽い原子同士を融合させ、質量の一部を一気にエネルギーに変換させることで、莫大な破壊力を生み出すことができる兵器。
参考までに核爆弾の恐るべき威力を紹介します。1945年に広島に落とされた核爆弾は、重さが4トンほど。爆発のエネルギーは、同じエネルギーを放出するのに必要なトリニトロトルエン、TNTの重量で表されることが多いですが、広島の核爆弾の場合はTNT換算でおよそ15000トン。
つまり、その核爆弾は、重さが4トンしかないのにも関わらず、15000トンのTNTと同じ威力を持つということになります。そして、その破壊力もすさまじく、当時の広島の人口35万人に対し、たった1回の爆発で9万人〜16万6千人が亡くなったとされています。
また、爆発といえば、2020年のベイルートでの爆発事故が記憶に新しいですが、その爆発の威力はTNT換算で500トン〜1100トン程度と予想されています。犠牲者を200人以上出した大惨事と比べても、核爆弾は文字通り桁違いの破壊力を誇るのです。
では、核爆弾の恐ろしい破壊力を、月へ向けてみましょう。月を構成する岩石は、重力によって繋ぎ止められています。そのため、月を爆破するためには、その重力がもつエネルギー以上のパワーをもって爆破する必要があります。
ある天体の重力によるエネルギーは、密度が一定であると仮定すると質量の2乗に比例し、半径に反比例します。月の重量と半径から重力のエネルギーを計算し、それをTNT換算に直すと、およそ3000京トン。
つまり、3000京トンのTNTを集め、それを月の中心で一斉に爆発させれば、めでたく月を爆破し、木端微塵にできるということになります。厳密には、月の密度は中心部に近くなるほど高くなるので、この計算とはズレが生じますが、大きな問題にはならないでしょう。
これにて必要なエネルギーが明らかとなりました。以前のバイエンスで紹介した通り、現在、地球上に存在する核爆弾の数の合計は、およそ15000個。そして、それらをすべて合わせると、TNT換算で30億トンと見積もられています。
おやおや、全然足りませんね。つまり、月を破壊するためには、地球上に存在するすべての核爆弾の、およそ100億倍のエネルギーが必要になるということです。
ひとまず、直近で月が爆破されることはなさそうです。が、バイエンスの技術力では可能な範囲です。爆破してしまいましょう。一体、何が起こるのでしょうか?
おそらく、爆発の威力により3つのパターンに分かれることが予想されます。爆発の威力が弱かった場合、月は砕け散った後に再び重力によって集結、新たな月を形成することでしょう。
この場合は、地球への影響はさほどありません。反対に爆発の威力が大きかった場合、月が跡形もなく吹き飛びます。運悪く、砕け散った月の大きな破片が地球と衝突でもしたら、地球上の全生物が一瞬で死滅してしまうでしょう。
まさに、巨大小惑星が衝突するのと同等、もしくはそれ以上の衝撃が地球上を襲うことになるでしょう。また、その中間の威力の爆発だったとすると、粉々になった月の破片が地球を回り、やがて土星のようなリングを形成する可能性も考えられます。
しかし、このリングは土星と違い、非常に不安定なもの。時間が経つにつれ、地球に隕石として降り注ぐことになるでしょう。この場合では、被害こそ大きいものの、生物の大量絶滅が起きる確率は高くありません。
過去に地球上で何度か大量絶滅を引き起こしたと考えられる隕石は、秒速数十km〜数百kmで地球に衝突しています。対して、リングとして地球を回ることになる月の破片は秒速8kmほど。
衝突のエネルギーは質量だけではなく、速度の2乗にも比例するため、このパターンでは月の破片による破壊力は比較的小さいのです。
それでは、運良く人類が月の爆破を生き延びたとしましょう。月がなくなってしまった地球は、どうなるのでしょうか。月が爆破された直後、一見すると何も変わらないかのように見えます。
しかし、地球の生態系は大きな影響を受けてしまいます。月は、潮の満ち引きに大きな役割を果たしており、月の重力により地球の海が引っ張られるため、満潮と干潮が存在しています。
月が爆破されてなくなってしまうと、潮の満ち引きを引き起こすのは太陽のみ。満潮時と干潮時の差は、現在の半分以下になると予想されます。
こうなると困るのが、潮の満ち引きの影響を常に受ける干潟や汽水域などに住む生き物たちです。月による潮の満ち引きという、何十億年もの間、絶え間なく繰り返されてきた現象が、突如として終焉を迎え、潮の満ち引きがある前提で成り立っていた生態系は、すぐに崩壊してしまいます。
さらに、月明かりにより産卵のタイミングを決めるサンゴなどの生物も、甚大な被害を受けることでしょう。これらの影響は月が爆破されてから数か月から数年で顕在化してきます。
しかし、もう1つ、数万年単位で影響を及ぼしてくる現象が起こります。それは、地球の自転軸が不安定になることです。現在、地球の自転軸は公転軸に対しておよそ23.5度傾いており、そのおかげで季節が存在しています。
一方で、自転軸は数万年単位で変動しており、地球の場合は22.1度〜24.5度。あまり変わらないように感じるかもしれませんが、自転軸の1度の差により氷河期が引き起こされたと考える科学者もいるほど、現在の地球にとって影響が大きい存在。
そして、その自転軸は、月を失うと一気に不安定になるのです。最悪の想定では、自転軸の傾きは0度〜85度にもなると予想されています。
地球全体の環境が予想のできないものとなり、数万年おきに大きな環境の変動に見舞われることになるでしょう。このような地球環境では、ほとんどの多細胞生物は長期的には生存できないと予想されます。
つまりは月を爆破すると、人類が生き延びる可能性はありますが、地球全体に重大な影響を及ぼすのです。復唱してください。
月を木っ端微塵にすることができるのは、バイエンススーツのみ。そして、人類を守ることができるのもバイエンススーツのみ。