母なる星、太陽。
30億年以上にわたり、時にやさしく、時に厳しく、地球上の生物を見守ってきました。事実、私たちの身の回りにいる生物のほとんどが太陽から降り注ぐエネルギーに依存しています。
それだけではなく、今まで落下し続けてきた太陽系の惑星や衛星が存在しているのも、ひとえに太陽のおかげです。太陽がいたからこそ、木星、土星、天王星、海王星、冥王星、エウロパ、タイタンに落下することができました。
太陽系における最も重要な天体である太陽ですが、その実態は絶えず爆発する水素爆弾のように、荒々しいものです。
では、その太陽に人間が落ちたら、どうなってしまうのでしょうか。太陽の内部には、どのような光景が広がっているのでしょうか。落ちた人間は無事でいられるのでしょうか。
今回は太陽に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
太陽の直径はおよそ140万km。太陽系最大の惑星である木星のおよそ10倍で、地球の100倍以上もあります。惑星や衛星とは比べ物にならないほど大きな天体に落下していくことになります。準備はいいですか?
また、今までの落下と違い、今回は近づくだけでも一苦労です。この星に向かって近づいていき、太陽より700万km~1000万kmの距離に差し掛かったあたりで、太陽の大気ともいえるコロナの中に突入することになります。現在、地球上で流行しているウイルスとは別ものなので勘違いなさらずに。
そして、太陽のコロナの温度は、なんと摂氏100万度以上。摂氏100万度というと全ての物質が一瞬で蒸発してしまうような印象を受けますが、実際にはコロナ中の粒子の密度は低いため、危険な状況になるのには時間がかかります。
摂氏70度のお風呂ではすぐに火傷してしまうのに対し、同じ摂氏70度のサウナには短時間であれば入っても危険がないのと同じです。とはいえ、やはり長時間コロナにとどまるのは危険。バイエンススーツを着用していなければ、ですが。
また、太陽から放出される放射線も、地球上とはくらべものになりません。太陽からの距離が1000万kmの時点で、太陽の放射線は地球軌道上で受ける放射線の200倍以上。ここでも、高温対策だけではなく放射線対策も万全なバイエンススーツの本領発揮というところでしょう。
さて、コロナの中を進みながら、太陽表面に向けて接近を続けていきましょう。太陽に近づくにつれ、フレアや、周りより暗く見える「黒点」と呼ばれる箇所を観察することができるかもしれません。
フレアとは太陽表面で発生する大爆発のことです。太陽系で最大の爆発現象であり、小規模なものは1日3回ほど発生していると言われています。
一方で黒点とは、太陽表面において磁力線が集まり、内部からの対流が止まるため周りより温度が低くなっている部分です。周りより温度が低いため暗く見えますが、強力な磁力を持っているので、なるべく近づかないようにしましょう。
このような光景に見惚れているうちに、太陽表面に近づいていきます。そうすると、不思議なことが起きます。なんと、太陽に近づくに連れ、温度が低下していくのです。
はじめはゆっくりと温度が下がっていきますが、コロナのすぐ下にある遷移層(せんいそう)と呼ばれる領域で一気に温度が低下します。
太陽の表面から高度18000km時点では摂氏100万度あった温度も、高度2500kmあたりではおよそ数万度。遷移層の下にある彩層ではさらに温度が低下し、最も温度が低い点は摂氏5000度になります。
そしてついに、太陽の表面である光球に到達します。この時点での温度は、およそ摂氏5500度。
なぜ太陽のコロナが表面より圧倒的に温度が高いかは、物理学における未解決問題の一つとして、今も科学者たちを悩ませています。太陽の磁力と関係があるという説が有力ですが、詳しくはまだわかっていません。
しかし、太陽表面の摂氏5500度という温度も、決して低い温度ではありません。バイエンススーツを着ていなければ、一瞬で蒸発してプラズマまで分解されてしまいます。
また、重力もすさまじく、太陽表面の重力は地球表面のおよそ28倍。当然、人間は28倍の重力に耐えうることはできません。
さて、まるでこの世の地獄のような環境である太陽表面ですが、太陽の表面は地球のように明確な地面があるわけではありません。太陽は大部分が水素とヘリウムで構成されています。
さらに、その水素とヘリウムはプラズマ化しており、太陽表面での密度は地球大気の1000分の1以下。
つまり、ほぼなんの抵抗も感じないまま、太陽内部へと落下を続けることとなります。私たちの目に見える太陽表面は、単に光が通過しなくなる境界線に過ぎないのです。そのため、残念ですが、あなたはこの灼熱地獄をさらに長く味わうことになります。
太陽表面である光球は、深さが100km〜500kmほど。それを過ぎると、対流層と呼ばれる層の中を進んでいきます。
この層では、「対流」という名前が示すように、内部にある温度の高い物質が上昇し、上層部にある温度の低い物質が下降することで、内部からの熱が上部に循環しています。
対流層の厚みはおよそ20万kmですが、落下し続けるごとにどんどん温度が上昇していき、最下層では摂氏200万度に到達するようにもなります。
そうしているうちに、次の層である放射層に到達します。この時点で、温度は摂氏200万度を超え、落下するごとに温度がさらに上昇していくでしょう。
圧力も、およそ1億気圧に到達するとされています。意外にも、放射層の中は真っ暗のように見えることでしょう。
水素とヘリウムの原子の密度が非常に高くなるため、光が目に当たる前に他の原子にぶつかって散乱してしまうことで、光が目に届かず、何も見えなくなってしまうためです。
真っ暗闇の灼熱地獄は、およそ30万kmに渡って続きます。超高温超高圧の真っ暗闇、今まで落下したいかなる星でも体感したことのない恐怖を味わうことになるでしょう。バイエンススーツが破損すれば、あなたは一瞬にして蒸発してしまいます。
そしてついに、太陽のコアに到達したようです。太陽のコアの一番深い場所で、温度が摂氏1500万度に達し、圧力は2000億気圧を超えます。
また、強い重力により、とてつもないパワーで凝縮されているため、密度は1立方センチあたりおよそ150g。地球上で重い元素として有名な金の密度は1立法センチメートルあたり19.32gです。
このような強烈な環境では、私たちの世界を形作っている原子ですら、不安定なものになります。原子はプラスに帯電している原子核と、マイナスに帯電している電子から構成されています。
プラスはプラス同士、マイナスはマイナス同士で反発しあうため、通常の状態では、プラスに帯電している原子核同士が近づくと、強い反発力が生まれ、原子核が衝突することはありません。
しかし、太陽のような恒星のコアでは、その高すぎる圧力と密度により原子核同士が衝突するほどに近づくことができるのです。現在の太陽のコアでは、水素原子同士が衝突し、最終的にヘリウムと、莫大なエネルギーが生み出されています。核融合と呼ばれるこの現象は、原理は人間が作り出した水素爆弾とほぼ同じ。つまり、太陽は常に爆発し続ける巨大な水素爆弾のようなものでしょう。
毎秒、水素をおよそ6億トン消費し、世界中の全人類が使用するエネルギーのおよそ100万年分のエネルギーが光という形で放出されます。
この世のものとは思えないような恐ろしい場所ですが、このコアがあるからこそ、地球上に生命が生まれ、繁栄してきたことは揺るぎようがありません。
さて、せっかく生まれた光ですが、すぐに周りの原子に衝突し消えてしまいます。一説によれば、太陽のコアで生み出された光が対流層に到達するまで17万年ほどかかると考えられています。
本来であれば光は2秒ほどで太陽のコアから表面まで到達できるはずですが、原子に衝突しては散乱しながら少しずつ進むことになるため、気の遠くなるほどの時間がかかるのです。
1500万度を超え、2000億気圧もの圧力はバイエンススーツでも何が起こるかわかりません。Mr。VAIENCEお早めに帰還してください。のんびりしていると、プラズマまで分解されるかもしれませんよ。