あまり人前に出ない亀の性生活を覗き見るため、研究者グループがひそかな生態研究を目指した究極のツール、「3Dプリンタ製ラブドール」を開発しました。
オンタリオ州カールトン大学の生態学者グループは亀のラブドール、科学的に言えば「3Dプリンタ製おとり動物」をヒラチズガメ(学名Graptemys geographica)の研究に応用しています。
この亀はオンタリオ州の絶滅危惧種やその候補種には当たりませんが、生態系の変動に弱く脅威にさらされやすいことから、州政府によって「特段の懸念種」に分類されています。
そのため、亀の生殖行動を理解することが種として将来生き残れるかどうかを左右するのです。
残念なことに、この亀はいくつかの理由で研究が難しい生物です。 まず、少しでも脅威を感じると水中に逃げ込んでしまいます。また淡水湖や河川の濁った深みで繁殖するため、交尾行動の観察は容易ではありません。障害を回避する方策を探る中、研究者たちは他の学者が3Dプリンタ製のおとり動物を使って対象を観察することを知ったのです。
カールトン大学で生態学と生物進化学を専門とするグレゴリー・ビュルテ講師は「この思いつきはヒラチズガメが冬を越すオピニコン湖で幾度となく潜水した経験から生まれた」と語っています。
「オスがメスに求愛したり、後をつけ回すところは何度も見ました。彼らの交尾行動を理解したいとの思いから、本物そっくりのメスの模型でオスをだませないかと考えたのです。最初に友人からGo-Proカメラを借り、譲り受けた古い亀の甲羅を使って試したところ何とかうまく行きそうでした。オスが寄って来たのを見た我々は、3Dプリンタを用いたおとりの作製に着手することにしました。」
2018年4月に発表した研究の中では、ヒラチズガメのオスがメスのサイズにどう反応するかを調査しています。この亀は性的二形(雌雄で形態が異なる)の一例で、メスのサイズがオスに比べてかなり大きいのです。
研究者グループは亀の標本をスキャンし、3Dプリンタを用いて、21cm大と25cm大の実物そっくりな雌亀の模型を作製しました。この「ラブドール」にカメラ(Go-Pro)を装着し、交尾時期に適当な水域へ沈めることによって、恋の炎が燃え上がるところを観察したのです。(動画を参照)
その結果分かったのが、オスは体の大きいメスに惹かれやすいということでした。これは研究者が予想した通りだったとのこと。体の大きな連れ合いは大きな卵を産みやすく、孵化しやすいことで種の存続の可能性が増えるからです。しかし録画された映像から、池の中で予期せぬ振る舞いが起きていることも判明しました。
ビュルテ氏はThe Conversationの最近の記事で、「実験で撮った映像を整理する過程で従来は考えられなかった現象に出くわしました。メスのヒラチズガメがメスの模型に向かってキーキーと鳴き声を発したり、アビがオスの模型を捕食しようとしたのです。今のところただの逸話でしかありませんが、ことによるとそれ以上のものがあるかもしれません。」と述べています。
「アクションカメラはどこでも手軽に入手可能なことから、亀のような水生動物も洞察をもって観察できるようになりました。動物の行動に対する我々の考え方に影響を及ぼすこともあるでしょうし、まだまだ不明な点が多い世界への好奇心をそそる入り口ともなるでしょう。」
reference:iflscience