ヒト免疫不全ウイルス(HIV)との戦いに努力を重ねているにもかかわらず、機能的治癒(検出不能レベルに下がった)と宣言されたのは今までにたった1人しかいませんでした。しかしThe Lancet HIVに掲載された新たな症例報告によると、その成功例を再現することは難しかったが、2人目のHIV完治が宣言されたのです。
HIV-1と診断されたこの患者は『ロンドンの患者』として知られ、HIV耐性遺伝子を持つドナーから提供を受け、幹細胞移植手術を行って以来体内からウイルス感染の陽性は出ていません。彼は30ヶ月間寛解の状態が続き、数学的にみても生涯にわたって寛解(全治ではないがほぼ消失)した可能性が高いと言えるでしょう。
この方法は、2008年に機能的治癒とされた『ベルリンの患者』と言われている1人目のHIV完治者に行なった治療と似たものでした。ちょうどこの例と同じく、組織サンプル内にウイルスのDNAの残党は残っていたものの、基本的に無害な感染した『化石』のようなものでウイルスが増殖する可能性はないと科学者は話しています。
「私たちはこの結果をHIVが治癒した第2の症例だと提唱します。」と第一著者でイギリスのケンブリッジ大学教授のラヴィンドラ・クマール・グプタ氏はEメールで声明を発表しました。
「私たちの調査結果は、幹細胞移植の成功がHIV治癒につながっており、9年前にはじめてHIVが治癒したと報告されたベルリンの患者の治療法は再現可能だということを示しています。」
2019年の症例報告によると、ロンドンの患者はHIV-1寛解状態を維持していますが、『治癒した』と宣言するのは早すぎると警告しています。その警告にも関わらず彼は『完治した』という報道があとを断ちませんでした。現在抗ウイルス治療なしで30ヶ月間の寛解期間がたち、この患者はウイルス感染から治癒し生涯にわたって寛解したと研究著者たちも自信を持っていうことができます。
ロンドンの患者は2003年にHIV感染を診断され、抗ウイルス薬を投与しました。残念なことにその年の後半にホジキンリンンパ腫という珍しんガンを患っていると診断され化学療法が必要となりました。ウイルスがぶり返すのを防ぐため化学療法に加えてHIV耐性のある(CCR5Δ32/Δ32)の遺伝子型を持つドナーから 幹細胞移植手術を受けたのです。ベルリンの患者のように全身放射線照射や2度の幹細胞移植を必要とはしませんでした。
「数多くの細胞サンプルをとったところ無傷のウイルスは存在しませんでしたが、彼は本当に治癒したと言えるのでしょうか?経過観察症例報告の追加データは治癒を示唆していますが最終的にはわかりません。時間がたてばわかるでしょう。」とオーストラリアのメルボルン大学のシャロン・R・ルーイン教授はこの研究に携わっていませんが、付随コメントを記事に書いています。
この治療は誰にでも受けられるものではなく危険が伴います。
「この治療はリスクが高く命の危険のある血液性腫瘍を併発したHIV患者への最後の手段なのです。」とグプタ教授は警告しています。「ですから抗ウイルス治療がうまくいっているHIV患者に広く勧められる治療法ではありません。」
HIV患者のほとんどは薬剤でウイルス治療を管理することができ、寿命ものばし、健康で過ごすことができます。
New York Timesの誌面で『ロンドンの患者』は名前をアダム・カスティリェホ、40歳、ベネズエラ出身のロンドン人と、自分のプロフィールを公開しました。しかし彼はここまでの道のりは長くて暗いものだったと話していますが、自分の話がほかの誰かの希望になればと自分の身元を公開することを決めたと言います。
「私は唯一無二のポジションにいます。ユニークだけど屈辱的なポジションでもあります。希望を与えるきっかけになりたいと思っています。」とカスティリェホさんは話しています。
reference:iflscience