人間の腸がアルコールを醸造するという珍しい症候群が、どんな治療も効果を見せなかったにも関わらずウンチを移植することで治療に成功した例が初めて医学文献に載ったのです。
自動醸造症候群(ABS)という変わった症状によって、一切飲んでいなくても患者は酔っ払ってしまいます。
ABSは微生物、おもに菌類によって引き起こされ、人が食べた炭水化物をエサにアルコールを作り出します。
ほとんどの人はこのような発酵させる微生物を少量持っているのですが、ABSを患うと微生物の量や発酵がコントロールできずに増加します。抗生剤による治療後に腸内バランスを崩し起こることがあります。
47歳の男性がベルギーの病院に搬送された経緯がまさにこれが原因でした。抗生剤投与を終えて以来、説明のつかないほろ酔い状態を感じていて、それが2ヶ月も続きました。
患者は医師に4日間飲んでいないと伝えたのですが、検査を行ったところ血中アルコール濃度が正常値の17倍以上、アメリカでの酒気帯び運転の上限濃度の2倍が検出されたのです。
医師は腸発酵症候群、つまりABSであると診断を下し、経口真菌薬処方し、炭水化物制限食を勧めたのですがわずかにましになっただけでした。さらに強めの抗真菌薬アムホテリシンを4週間増加投与し効果があったように見えたのですが、患者はまだ酔っ払った状態が続き、彼の妻は息がアルコールの匂いがしたと報告しています。
検問で飲酒運転の違反切符を切られ、患者と医師はもっと思い切った治療、便内の微生物移植、いわゆるウンチ移植に踏み切ることにしました。
近年ウンチ移植は腸内の微生物バランスを整えるのに有望な新しい方法として提案されています。とはいえ、効果があるのは一部の感染症のみで、命を脅かすリスクを考慮に入れる必要があります。
それでも彼は試したいと思い、彼の22歳になる娘からサンプルが提供されました。幸運にもウンチ移植は大成功を収めました。移植から3年ほど経った今も、患者はABSの症状は出ておらず、血中アルコール濃度は通常値となりました。彼は運転免許を再度手にすることさえできました。
現在患者は時折ビールなどを嗜んで、自分の意志で酔いたい時だけ酔っている、と医師は綴っています。
「この患者の経験をもとに、私たちは腸発酵症候群の患者を持つほかの臨床医たちに、一通りの治療を行っても改善しない場合は便内微生物移植を考慮に入れる事をアドバイスしています。」と研究チームは事例研究に記しています。
「さらに、便内微生物移植の安全性を評価する研究がなされ、このアプローチが腸発酵症候群のスタンダードな治療法となる未来が見えます。」
通常は食事療法や薬物治療、プロバイオティクスで十分ABSの治療が可能ですが一部の患者にはさらなるアプローチが必要となります。便の移植はそのアプローチを研究するための有望な手段なのです。
この研究論文はAnnals of Internal Medicineに掲載されています。
reference:sciencealert