恒星質量のブラックホールが銀河に浮かぶ、それを見ることはできないけれどそこにあるのです。そして迫りつつあります。天文学者は地球に最も近く、以前の記録よりも3分の1以下の距離にあるまだ見つけたことのなかったブラックホールを特定しました。
この地球近くに存在するブラックホールが発見されるのを免れていたのは、とても小さく、とても静かだからです。ブラックホールは検出可能な放射線を何も放出も反射もしないため、周りの空間から活発に物質を飲み込んでない時には検出することが非常に困難なのです。
しかし新たに発見されたものはその存在を教えてくれたのです。B型主系列星のある恒星系の中にあり、地球から肉眼で見ることができ、いままではこれをHR 6819と呼ばれる連星系と考えられていました。
天文学者たちが連星の調査の一環としてこの恒星系を観察していたところ、なにかねじれを見つけたのです。二つの主系列星の軌道は斜めに引っ張られているようでした。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)のラ・シヤ天文台に設置された2.2mのMPG/ESO望遠鏡を使って星の追跡調査をしました。その星の1つはかなり離れたところに位置していますが、もう1つの質量は太陽質量の5倍から7倍と推測され、恒星系の中心を40日周期で軌道しています。
分析した結果、これらの軌道は2つではなく、3つの物体が軌道上で回っていることがわかりました。3つ目の物体は目に見えないため全く他の何かであるようでした。
「太陽の4倍以上の質量で目に見えない物体といえばブラックホールしかありません」とヨーロッパ南天天文台の天文学者トーマス・リヴィニウスは話しています。したがって、「この体系には私たちが知るところの最も地球に近いブラックホールが含まれています。」
しかもたったの1,000光年しか離れていません。以前は地球から3,300光年離れていると測定されていたブラックホール0620-00が最も地球に近いとされていました。
現在準備中の論文では星の性質をより詳細に分析しますが、研究チームの分析ではブラックホールの最小質量は太陽の4.2倍でほぼ正確な数字です。
現在まで、太陽の5倍の質量以下のブラックホールを検出したことはありませんでした。ブラックホールHR 6819がその最小記録を打ち破るかどうかはまだ確定していません。しかし研究でわかったことは、おかしな星の動きを探すことでブラックホールが見つかる可能性があるということです。
いまのところ、私たちが天の川で検出してきた50ほどの恒星ブラックホールは、物質がそこに吸い込まれる時に発する強烈な熱と光で揺れることで見つかりました。新たな発見で用いた技術は、活発ではないブラックホールが多いと推定される時に見つける方法になると言えます。
おかしな動きをする星を探すことでブラックホール発見の実を結んだのはこれが初めてではありませんが検出するごとにより多くの手がかりを得ることができます。
「宇宙には何億ものブラックホールがあるはずですが、私たちが知っているものはごくわずかです」とリヴィニウス氏は話しています。「何を探すべきかを知ることで、より探しやすいポジションに身を置くことができます。」
これらの体系によって未解決のミステリーを解くカギを得ることができます。例えば、この3つがブラックホールを含む体系の中でどう相互作用するかを観測することは多体系が重力波を生むブラックホールや中性子星衝突にどのような結果をもたらすのかを理解するには重要です。
去年、他の天文学者チームが作業中のエラーを特定する前に、『ありえない』質量のブラックホールが存在することが分かったLB-1のケースもあります。天文学者は未だに頭を抱え、この特異性を説明するための解決法を探しているのです。その答えはHR 6819の中にあるのかもしれません。
「LB-1と呼ばれるもうひとつの連星は3連星であるかもしれませんが、確信を持つには更なる観測が必要です。」とESOの天文学者マリアンヌ・ヘイダ氏は言います。
「LB-1は地球からちょっと離れていますが、天文学的に見れば近いと言えます。つまりこのような体系が広い宇宙には多分たくさん存在しているのでしょう。発見や研究することによって、その太陽質量の8倍以上もある珍しい星の形成や進化、ブラックホールを残して終える超新星爆発について学ぶことができます。」
三連星系はブラックホールや中性子星が結合する前兆とも言われています。これに関連してHR 6819はとても関心を引きます。ブラックホールに吸い込まれ崩壊するには、前駆星は少なくとも太陽の20倍の質量が必要です。太陽の8倍から20倍の前駆星は中性子星となります。
HR 6819にある2つの星は太陽質量の6倍もの星の周りに浮かんでいて、いずれ白色矮星へとなります。この体系が一般的なものかどうかはまだ探索されていません。
この素晴らしい体系が宇宙について何を教えてくれるのか待ちきれません。
この研究は Astronomy & Astrophysics.に掲載されたものです。
reference:sciencealert