世界最大のサメを調べたところ、目が「皮歯(dermal denticle)」と呼ばれる小さな歯で覆われていることが分かりました。この発見は「PLOS ONE」誌に掲載され、その中でジンベイザメが柔らかい眼球を傷つけないために保護層を用いていることが明らかにされています。
ジンベイザメ(学名Rhincodon typus)は海に住む最大の魚で、その全長は最大18mにも達します。ただしこの心優しい巨人が食べるのは海中で最小の動物、オキアミなのです。他のサメと同様、ジンベイザメも「皮」の層を形成する皮歯で覆われています。皮歯はV字型の構造を持ち、これによって摩擦や乱流を抑え早く静かに泳ぐことが可能になります。
多くのサメ類には「第三の」瞼があり、捕食のため激しく動く時に目の上へ張り出すようになっています。第三の瞼も奇妙ではありますが、頭の中に引っ込むジンベイザメの目にはかないません。ジンベイザメには瞼がなく眼球全体が眼窩の奥に転がり込む形になっていて、自然界で一番分かりやすいガッカリ表現といったところでしょう。
沖縄美ら島(ちゅらしま)研究センターが水族館の生体と標本を用いてジンベイザメの変わった目に関する研究を進めると、さらに不思議な事が明らかとなりました。目の保護形態をさまざまな手法で調べたところ、他に類を見ない「装甲眼」であることが分かったのです。
ジンベイザメの目の部分の皮歯は「皮」の部分とは形が違い、その小さな歯のような存在が体の流体抵抗を減らす以上の働きをしています。研究チームはこの鋸歯状物が保護機能を持ち、目が削れるのを防ぐのではないかと考えています。おそらくこの機能はジンベイザメが視力を完全に保つことの重要性を示しているのでしょう。
研究チームは報告でこう記しています。「目の部分の皮歯は知る限りにおいて他の軟骨魚類(サメ、エイ、ガンギエイなど)には見られず、ジンベイザメの類縁種にも存在しません。つまりジンベイザメ固有の特徴らしいのです。」
ジンベイザメが周辺環境を知覚する際には視覚以外の感覚を優先すると以前は考えられていましたが、先のような進化適応は眼球の保護が巨大生物の生存にとって思ったより重要であることを示唆します。研究チームはこの驚異的な生物の奇妙な目をさらに調査し、色覚範囲、視野や感度などを明らかにしたいと考えています。
reference:iflscience