地球の外側を公転している赤い惑星。火星は太陽系の惑星の中で気温などの環境が最も地球に近く、それゆえに人類は数々の探査機を火星に送り込んでいます。
今回のバイエンスでは、2020年現在、火星で活動を続けている探査機キュリオシティーが撮影した4K画像をお見せしながら、皆さんを火星旅行にお連れしましょう。
それでは、最新の観測データをもとに、絶景、火星の旅へご案内します。
ここは、太陽系第4惑星「火星」です。液体の水が存在しないため、今ご覧になっている火星の表面は、まるで地球の砂漠のように質素な世界となっているでしょう。
火星の表面は地球と同じ岩石でできており、その上に大きさ3マイクロメートルほどの細かい砂が積もっています。砂は主に酸化鉄から構成され、この酸化鉄こそ火星が「赤い惑星」と呼ばれる所以です。
地球の砂漠とは異なり、火星の砂には0.5%ほど過塩素酸塩が含まれています。過塩素酸塩は紫外線によって活性化することで、わずか数分で細菌を殺傷してしまいます。そのため、火星地表で生命を探すことはあまり好ましくないのかもしれません。
さて、現在の火星表面に液体の水はありませんが、過去もそうであったわけではありません。
ここは、火星赤道付近にある、ゲール・クレーターというクレーター内の一部分。明らかに、地層ができています。これは、かつての火星に液体の水が存在していた名残す。
この場所は何十億年も前、火星に液体の水が存在した頃にできた川の一部であったと考えられています。約35億年前の火星は、地球と同じように厚い大気が存在し、地表の一部は海に覆われていたと考えられているのです。
現在の砂漠のような環境からは想像がつきませんが、この場所だけではなく様々な場所での観察結果から、かつての火星には液体の水が豊富にあったとみられています。
水の痕跡は多数見つかっていますが、生命の痕跡は、現在のところ見つかっていません。この広大な大地のどこにも生命が存在しないのだとしたら、地表のあらゆる場所に生き物が反映している地球に比べると、非常に寂しい星です。
なぜ火星の海が消失し、地球だけが液体の水が存在できる環境であり続けられたのかについては完全には明らかとなっていません。
火星の大気圧は、地球の1%以下。地球上で考えると上空35kmの大気圧と同じ程度。人体にとっては限りなく真空に近いため、生身の人間ではすぐに命を落としてしまうでしょう。
大気の95%は二酸化炭素で構成されており、3%は窒素、2%はアルゴンです。二酸化炭素による温室効果により火星の表面は多少暖かくなりますが、それ以上に太陽から離れているため、地球とは比べ物にならないほど寒くなるのです。
昼間において赤道付近では、摂氏20度を超えることもありますが、夜間や北極、南極では摂氏-150度にもなります。
また、火星では、定期的に惑星全体を覆う砂嵐が発生します。
風速が時速100kmほどにもなる砂嵐は、宇宙から地表の観測が全くできなくなるほど。砂嵐の影響は凄まじく、2018年に発生した際は、当時稼働していた探査機オポチュニティーの太陽光パネルを覆い、再起不能にしました。
近い将来、火星に人間が降り立つときにも、砂嵐に対する何らかの対処法を考えておく必要があるでしょう。このように、地球に環境が近いと言えど、実際にはかなり差があるのです。しかし、今まさに見えるこの風景だけは遥か離れた地球と瓜二つと言えるのではないでしょうか。
ここは、ゲール・クレーターの中心部にそびえ立つ、高さ5500mのアイオリス山の斜面です。手前の稜線は赤鉄鉱と呼ばれる鉱物でできており、そのすぐ奥に見える茶色の波打った部分は粘土でできていると考えられています。
さらにその奥には硫黄を多く含んだ白い岩石が多い層と、今は風化してしまった丘が見えます。非常に複雑な地形ですが、どれも水の存在があってこそ形成される地形です。
ゲール・クレーターはかつて湖を形成しており、当時は微生物が生息しやすい環境だったと考えられています。
なぜそのような環境下で日本の富士山よりも高い山ができたのかは、よくわかっていません。火星の地形については、現在の姿は観測できても、それがなぜできたのかは謎であることが多いのです。
過去には火山活動があったと考えられる火星ですが、現在ではその火山活動は停止していると考えられます。数十億年前には似たような環境であった火星と地球ですが、一方は生命にあふれ、もう一方は死んだ星となってしまったのです。
あまり火星に長く滞在しすぎると、私たちも死んでしまいます。そろそろ、火星の旅から帰還しましょう。