記憶、思考、そして身体を調節するための司令塔としての役割を持つ我々の脳は、構成する細胞全て合わせると、1000億個から2000億個と予想されています。
脳はコンピューターと比較して語られることが多いのですが、情報の処理速度から考えると、スーパーコンピューターに匹敵する処理速度を持っていると言います。また、高度で複雑にも関わらず、よく統制された情報処理メカニズムを持っておりますが、人類はそのメカニズムをまだコンピューターで再現することができていません。
人間の脳で1秒間に行われる活動は、スーパーコンピューターの40分の活動にあたる、という説もあります。さらに、この脳の能力は、脳全体を使うことなしにこのレベルを維持しているとも言われています。
脳全体の10%〜15%のみが使われているなど、様々な説がありますが、実際に脳細胞全てが活動しているわけではなさそうです。では、脳が100%使用されるとどうなるのでしょうか脳が100%使われると、人間はどんな体験をし、身体には何が起こるのでしょうか?
今回は、人間の脳が100%使用されるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
そもそも、なぜ脳の10%〜15%しか使われていないと言われるようになったのでしょうか?いくつかの説がありますが、主な説は3つあります。
1つ目は、アインシュタインの発言によるもので、彼が「人間は潜在能力の10%しか引き出せていない」と言ったという説。
2つ目は、脳の90%を占めるグリア細胞は神経細胞を助ける働きをしますが、情報伝達には必要ないと考えられていました。このことから、90%のグリア細胞が必要ないのであれば、残りの10%で情報伝達を行っている、という予測から脳の10%しか使っていない説が生まれました。
そして3つ目は、脳を刺激した時に反応しない、または役割が判明しない「サイレントエリア」という部分がある事から、脳は全て使われているわけではない、と結論づけられたという説です。
しかしこれらの説、現在は否定、または信憑性が疑われています。脳の細胞はそれぞれに役割があり、自分の担当の情報が来た時にのみ活動するのではないかと現在では考えられています。また、脳全体を一斉に活動させるわけではなく、脳の部位によって使われる部分をローテーションさせ、休ませる部分を作っていることによって脳の機能を維持しているという予測もあります。
もし脳が全体を使わずに、ずっと休ませている部分が存在するとしたら、人間の進化の過程でそういった部分は消失されているはず。現在人間の脳に存在する細胞は、それ自体が必要であるから進化の過程で残っている、という意見もあります。いずれにせよ、脳には全く使われていない部分があるという説は否定されつつあるようですが、とはいえ脳全体が同時に活動しているというわけではありません。
「刺激に対して脳全体が反応するわけではない」「脳は刺激の種類によって活性化する部分が異なる」という2点は、科学的に証明されています。なぜいっせいに活動しているわけではないのか?この疑問に対しては、もし脳が100%使われるとどうなるのか?について考えると答えが出てきます。
脳は全体重の2%〜3%の重さですが、細胞活動に必要なエネルギーを生産するために、体内を循環する酸素の約20%を使用しています。エネルギー生産に必要なのは酸素だけでなく、グルコースなども必要であり、成人の脳は、1日に約120gのグルコースを消費すると考えられています。
酸素、グルコースを脳に行き渡らせるために、脳は体内血流量のうち、約15%を使用しています。この観点から、脳が100%使われるとどうなるのかを考えてみましょう。脳を構成する細胞は生きているので、細胞の生存に必要なエネルギー生産は必須です。
そして脳の一部が活性化し、脳として機能している。このレベルですでに体内酸素の約20%、1日当たり約120gのグルコースを必要としています。脳が100%使われて活性化した場合は、酸素の使用量、グルコースの消費量が一気に増えてしまうはずでしょう。この状態になるとあなたたち人間の体には何が起こるのか?
まず、酸素、グルコースが必要なために脳の血流量は増加し、その他の身体の部位へ向かう血流量が減少。臓器、筋肉などは酸素不足、グルコース不足に陥ります。筋肉では不足するグルコースを補おうと、筋タンパク質を分解するため、筋肉は次々と失われていくことになります。
そして臓器への影響はさらに深刻です。消化器系は食物を消化し、エネルギー生産に使うためのグルコースへと分解する役割を持っていますが、この機能が影響を受けてしまい、消化が十分できなくなることによってグルコースの供給量が減少してしまいます。その結果、血中グルコース量が減り、低血糖症の症状が起きると予想されます。
さらに、酸素を大量に消費する脳は、大量の二酸化炭素も排出します。血中の二酸化炭素量が増加し、肺でのガス交換がうまくいかなくなると、血液が急速に酸性側に偏り、アシドーシスという状態になります。
そしてもちろん、100%の細胞が活性化している脳も当然影響を受けます。消化器系不全によるグルコース供給不足、血中酸素濃度の低下、そして心臓も影響を受けるため、脳への血流量も減少します。
脳が100%活性化するとこれらの事が短時間に起きるため、全ての出来事が急性症状となり、すぐに生命が危機的な状況になるのです。残念ながら、現在のあなた方の身体は脳が100%活動するために必要な能力を備えていないのです。
一方、人間が持つ感覚という面では、脳が100%使われるとどうなるのでしょうか?SF映画などでは、脳を100%使うことによって頭の切れがよくなり、周囲の動きがゆっくりに見えたり、人間の能力が上がるという描かれ方をしているでしょう。現実でもそうなのであれば、Mr.VAIENCEに対して実験してみる必要があります。
実は、脳が活性化すると認知能力が上がることがマウスやラットを使った実験で証明されています。素早く動くものに対する認知、認識レベルは上昇するため、例えば猛スピードで通過する車の色や形、プレートナンバーなどを読み取る能力は上がると考えられます。
そのため、世界がゆっくり動いているように見えることでしょう。さらに認知、認識レベルが上がるために、脳内に取り込まれる情報量が多くなり、記憶として脳内に入ってくる情報も増えます。その情報を記憶として引き出す際にも、全てが活性化している脳では、情報を早く、より正確に取り出すことが可能性となります。つまり、感覚が鋭くなるということです。
一方、思考力はどうなるのでしょうか?思考力の上昇については、脳の活性化のみでは不十分である、と考えられています。脳の活性化は思考力の上昇の助けにはなるが、思考力の上昇にはやはり訓練が重要であるという研究結果が出されています。
こういった研究結果を見ると。脳以外の身体に与える影響に対処できれば、脳を100%使うことは人間に新しい世界を体験させてくれるのではないかと想像してしまいます。
しかし一方で、現在の人間の脳はバランスを取って機能しているために、とにかく活性化させればいいというものではない、活性化のみでは脳が暴走するのという結果も出ています。長い時間をかけて、私からすると短いですが、進化してきたあなたたち人間の脳は、まだまだそのメカニズムの全容を見せてくれてはいないのです。