植物状態となっている人の鼻に匂いを放つ瓶を近づけると、自発的に匂いを嗅ぐ人もいます。おかしな話に聞こえますが、新たな研究によって、この方法で正確に意識障害の患者を診断し回復の見込みを判断できることがわかりました。
イギリスのケンブリッジ大学とイスラエルのワイツマン科学研究所の研究者たちが、外界をわずかに認識、もしくは全く認識しない脳損傷が深刻な43人の患者に『匂いテスト』を行ったことをNatureに報告しました。研究者たちは特殊なチューブで鼻の呼吸を監視しながらシャンプーのいい香り、魚が腐った不快な臭い、全く匂いのしない3つの瓶を患者の鼻に5秒間近づけました。
鼻から強く吸い込む反応を見せた患者は100%意識を取り戻しました。3年半の追跡調査をしたところ、この患者らの生存率は91%でした。しかしこのテストで反応を見せなかった患者の63%は死亡したのです。このことから、『匂いテスト』によって深刻な脳損傷を負った患者の生存見込みを予測できるだろうと考えられます。
「嗅覚テストの正確さは注目に値します。」とケンブリッジ大学とイスラエルのワイツマン科学研究所所属の心理学者で論文の第一著者であるアナット・アルジ氏は声明で述べています。
「植物状態の患者が匂いに反応した場合、その患者は少なくとも最小意識状態へと推移します。場合によってはこれが唯一の脳が回復する兆候であり、他に回復兆候が見られる数日前、数週間前、あるいは数ヶ月前に匂いへの反応が見られたのです。」とアルジ氏は説明しています。
最小意識状態の患者のおよそ35.5%は匂いに反応がなく、『匂い反応の欠如が必ずしも意識がないことを示しているわけではない』と著者は記しています。研究者たちはさらに、匂いに反応しない患者の中には嗅覚に関する脳の構造に損傷を負っている人がいることがこの結果に表れたのではないかと見ています。
しかし調査によってわかったことは、匂いを処理できる人は他の反応や認知の兆候が何もないにも関わらずある程度の意識があるので、匂いを嗅ぐことで患者の長期転帰を予測できることが示唆されます。いい匂いと不快な匂いの区別がつく患者は誰もいなかったが、匂いのしない瓶を近づけても匂いを嗅ぎ始める患者もいたことから、瓶自体へと認識が拡大しているか、嗅覚テストをしていることで匂いがすることを期待していると思われます。別の言い方をすれば、においをかぐことは脳の覚醒の基本的なメカニズムの1つであると強調していうことができます。
「匂いへの反応が通常通り機能している場合、患者に他の兆候が全くなくてもある程度の意識レベルがあることを示唆しています。」と調査メンバーのTristan Bekinschtein博士は話し、さらにこう語っています。「回復見込みを評価する新しくシンプルなこの方法を意識障害のある患者への診断ツールとしてすぐにでも組み込むべきです。」
reference:iflscience