火星で確認されている3つの生物の痕跡

もし地球以外の天体で生命を発見することができれば、人類史上最も重要な発見の一つとなることは間違いありません。しかし、ご存じの通り、人類は未だに地球以外で生命を発見したことはありません。

とはいえ、人々は100年以上前から地球外の生命体の調査をしてきました。19世紀後半には、地球の隣の惑星、火星に運河のような模様が見えたため、火星にかつて存在した古代文明の名残だという説が生まれました。

20世紀に入る頃にはすでにこの説は明確に否定されていたのですが、火星は今でも地球外生命体発見における大本命といえるでしょう。火星に生き物は存在しているのでしょうか。生命体の痕跡は存在しないのでしょうか

今回は、火星に生命は存在するのかについてご紹介したいと思います。

火星は、太陽系第四惑星であり、太陽系で2番目に小さな惑星です。地球と比較してみると、質量はおよそ9分の1、太陽からの距離は1.5倍ほどです。

この質量と太陽との距離により、地表の重力は地球のおよそ5分の2、表面の平均気温は摂氏-60度となり、太陽系の他の惑星と比べると、最も地球に近い環境となっています。

摂氏-60度というと、一般的には寒すぎて生命は生息できないと思いがちですが、例えば地球上で最も寒い定住地であるロシアのオイミャコンでは、摂氏-71度を記録したこともありますし、それ以上に低い気温を記録している南極大陸にも、生命が実際に存在しています。

また、摂氏-60度というのはあくまで火星全体の平均値であり、火星の赤道付近では真夏の昼に摂氏20度ほどまで気温が上昇することもあります。気温だけを見れば、火星に生命が生息できるのではないかと考えるでしょう。

そのせいでしょうか。古来より火星に生命体が存在すると信じる人は多く、冒頭紹介したように19世紀にはそのような説を唱える科学者もいました。

また、直近では2015年にNASAの火星探査機、キュリオシティが撮影した画像に、カニのような生物が写っているのはないかと話題になりました。当然、これはカニのように見える気持ちも分かりますが、ただの岩です。

現在では、火星の表面には生命は存在できないとする説が有力です。これは、大気圧が地球の1%にも満たないほど薄い大気しか持たないのと、地磁気が存在しないことにより、太陽などから降り注ぐ放射線が直接火星表面に届いてしまうためです。

ご存じの通り、高エネルギーの放射線は地球上のあらゆる生命にとって危険なものです。

例えばキュリオシティは1年間あたり76ミリグレイの放射線を観測していますが、これは地球上のいかなる生物であっても長期間は耐えられないと考えられています。

しかし、人間の想像力はたくましく、空に浮かぶ雲が何かを形作っているように見えるように、なんてことはない岩を何か意味のあるものとして捉えてしまう傾向があります。

先程紹介したカニも、この人間の習性による産物、オカルトの類にすぎないとされています。

ではこのようなオカルトを抜きにして、実際問題、火星に生命は存在するのでしょうか?

先程紹介した通り、火星の表面には生命が存在する可能性は非常に低いとは考えられており、もちろん、今のところ実際に発見はされていません。ですが、地表を10m掘ることができれば、生命を発見できるかもしれません。

これは、放射線が火星の土に遮られ、地中の奥深くまで侵入できないためです。ですが、

現状の探査機の性能では、火星の地中まで調査することができません。そのため火星における生命存在の決定的な証拠を得られていないというのが現状なのです。

しかし、間接的な証拠であれば、数多く見つかっています。今回は、その中から、火星上での生命の存在可能性に期待が持てるような発見を、3つご紹介しましょう。

一つ目は、火星の大気中のメタンの増減です。メタンは、最も簡単な炭化水素、すなわち炭素と水素から成る化合物です。

火星の大気中では、太陽からの紫外線などの影響でメタンはすぐに分解されてしまうはずですが、2018年にNASAは、火星大気中のメタンの濃度が周期的に増減していることを発表しました。

すぐに分解してしまうメタンの濃度が周期的に増減するということは、何かがメタンを大気中に放出している可能性が考えられるでしょう。

メタンは火山活動などの生命とは関係なく生成することもありますが、生命活動でも生成されることがあるため、決定的ではないものの生命の存在の有力な証拠になります。

つまり、火星の地中深くにメタンを生成する生物が存在し、その排出量が火星の季節に応じて変化しているのではないか、という仮説を立てることができるのです。

現在の火星では、人類が知る限りでは火山活動が起きていないということもあり、発表当時は話題になりました。

一方で、やはり生命由来以外のメタンである可能性もあり、現在でも調査が続けられています。

二つ目は、火星南極の氷の下に湖が存在することです。人類が知る限り、地球の生命にとっては液体の水は不可欠でしょう。火星地表の気温と気圧では液体の水は存在できません。

そのため、火星の研究者たちは地表の下に液体の水が存在するかどうかを調査してきました。例えば、火星を周回している人工衛星からレーダーを発射し、その反射を利用して液体の水の存在を検知するという方法があります。

2018年には、ついにその手法により火星の南極の氷の下に直径20kmほどの湖が存在することを突き止めたのです。氷の下に液体の水が存在することは、以前バイエンススーツを着て落下したエウロパや、地球の南極でも見られる現象です。

そして、地球の南極の氷の下の湖に生命が存在することも事実です。そのため、火星南極の氷の下に生命が生息している可能性があるのです。

しかし、これもあくまで水の存在でしかなく、生命の存在については何も発見がないことに注意が必要です。

また、この湖には大量の塩が溶けており、摂氏-10度から-30度程度の温度だと推定されています。少なくとも地球上に生息する生物にとって、この環境での生存は難しいと言わざるを得ません。

三つ目は、かつての火星には表面に液体の水が存在したということです。およそ35億年前までは、液体の水が火星の表面でも存在できたとする説が有力です。

地球を見てみると、地球の誕生が45億4千万年前ですが、その4千万年後、45億年前にはすでに生命が誕生していたとする説もあります。

いずれにせよ、35億年前には地球上に確実に生命は誕生しており、火星においても生命が誕生していた可能性も十分あります。

現在の火星の表面には液体の水は存在しないため、仮に生命が誕生していたとしても大部分は消えてしまったと考えられています。しかし、氷の下に湖が存在するように、液体の水が火星から完全に消え去ったわけではありません。

地球においては、液体の水が存在するところには、確実に生命が存在します。火星においても同様と考えるのは、不自然なことではないでしょう。

実際に、火星に生命が発見されているわけではありませんが、状況証拠は多数存在します。史上初の地球外生命体が火星で発見される日も、そう遠くないのかもしれません。

いつの日か、火星で発見された生命に関する情報をバイエンスでお届けできる日はくるのでしょうか。



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